さまざまな脳神経疾患の診断および治療において,磁気共鳴画像(magnetic resonance imaging:MRI)検査は,近年,重要な情報源の一つとなっています. ヒトの体は約70%が水分で,脂肪を含めると約90%になります. MRIとは,強力な磁場のなかに人体を置き,それに電波を加え,水および脂肪の構成原子である水素原子核を共鳴させることで画像化するものです. このMRI検査によって,脳のどこにどのようなタイプの病変(梗塞,出血,腫瘍,委縮,変性など)があるかを確認できます. ファンクショナルMRI(fMRI)は,このMRI装置を使って,脳の“機能(function)”を画像化しようというもので,当科では1995年よりfMRIを用いた研究を行っています. 以前から,脳の機能をみる手段として,脳波,脳血流SPECT,ポジトロン断層撮影(PET)などが用いられていましたが, fMRIはこれらに比べ,放射性物質や造影剤などを使うことなく非侵襲的な検査が可能であること,時間・空間分解能(解像度)が高い,MRI装置が普及しているなどの利点があります. fMRIの原理を簡単に説明します.血液中には,酸素と結合したヘモグロビン(オキシヘモグロビン;Oxy-Hb)と,結合していないヘモグロビン(デオキシヘモグロビン;Deoxy-Hb)が存在します. Deoxy-Hbは,その構造上の特性から周囲組織との間に磁場不均一性を生じ,その結果,MRIの信号を低下させます. 通常,安静時の脳では,静脈血内のDeoxy-Hbにより,もともと信号が低下した状態にあります. ここで,被験者が課せられた課題を実行すると,その課題に必要とされる神経細胞群が賦活されます. このように,何らかの刺激で局所の脳が賦活されますと,その局所の脳血流が増加することで相対的にDeoxy-Hbが減少し,MRIの信号強度がその領域だけ増すことになり,脳の機能に関連した画像が得られるという仕組みです. つまり,fMRIは,脳神経活動に伴った局所の脳血流変化をMRI信号の変化として捉えて,間接的に脳の活動を観察しようというものです. この原理は,BOLD(blood oxygenation level dependent)効果とよばれ,1990年にOgawaらによって発見されました.

 次に,fMRIの実際の撮像について説明します. 例えば,課題を右手の指対立運動(右第1指を,第2?5指まで順番に対立)とし,図1のように,安静と課題を交互に合計250秒間撮像します. 解析ソフトを用いて,安静時と課題遂行(脳賦活)時のMR信号の差を検出し画像化したものが図2です. 左上図は,脳を右側から,左下図は上部から,そして右上図は後方から観察した透過像です. 右手の指対立運動に伴い,左一次感覚運動野(a)および右小脳半球・虫部(b)が活動していることがわかります. 図3は,標準的な脳の画像上に,統計学的に有意な賦活部位が赤?黄色で表示されています. このように,fMRIでは,被検者に種々の課題を負荷することで,脳のどの部位がどのような働きに関連しているのかを調べることが可能です. また,図4は,脳腫瘍の患者さんが言語の問題(しりとり等)を解いているときの fMRI画像ですが,左大脳の腫瘍に隣接した領域に信号上昇がみられ,言語野であることを示しています. 外科的に腫瘍を摘出する際,この言語に関連する領域に注意を払うことで,術後の言語障害の後遺症を回避することができます. このように,fMRIは脳外科手術における切除範囲の決定にも役立てることができます.

 近年,fMRIは,大脳生理学,認知科学,神経心理学,精神神経学などの幅広い分野の研究者に注目されています. 現在,当科では,主にパーキンソン病,大脳皮質基底核変性症,進行性核上性麻痺,眼瞼痙攣といった神経変性疾患の病態解明を目的に研究を進めています.