1.“しびれ”とは?
“しびれ”は,神経内科の外来を受診する患者さんの訴えとして,頭痛,めまいなどとともに多い症状の一つです.この“しびれ”という言葉を,手足の力が入らないような運動障害に対して使う方もおられますが,本稿では,「感覚のしびれ」について説明します. “しびれ”に関連する感覚には,表在覚(触覚・痛覚・温冷覚),深部覚(関節位置覚・振動覚)などが含まれます.皮膚・筋・関節などの感覚受容器からのこれらの情報は,末梢神経→神経根→脊髄→脳幹→視床といった神経系を経由して大脳(頭頂葉)の感覚中枢に伝えられますので,これらのどこに障害があっても感覚の障害は起こり得ます.
2.“しびれ”の診察
感覚障害による“しびれ”を表現する主な言葉に,感覚消失,感覚鈍麻,感覚過敏および異常感覚があります. 前3者は外から皮膚に刺激を与えることでわかる感覚の障害で,患者さん自身がジンジン感,ビリビリ感など自覚する場合を,異常感覚といいます. 神経内科で,これら感覚障害の検出に用いる一般的な診察道具を紹介します. 触覚には毛筆,痛覚には洋裁道具でもある回転式針車(または安全ピンなど),振動覚には音叉,温冷覚には温・冷水を入れた試験管などを使用しています. いずれも,特殊なものではなく手軽な道具ですが,たいへん有用です. どの神経系が身体のどこの部位を支配しているか決まっていますので,これらの道具を用いて,皮膚のどの領域にどのような感覚の障害があるかを調べることで,神経系の障害のレベルが推定できます. 最終的に障害部位を確定するためには,発症の仕方(急性,慢性)や経過(一過性,進行性),合併する運動障害やその他の神経症状および補助的検査の結果から総合的に診断します.
3.末梢性の“しびれ”
末梢神経は,体全体の皮膚に分布しています.1本または数本の末梢神経が外傷,圧迫などで物理的な障害を受けた場合,その支配神経領域に一致して感覚鈍麻などが認められます.例えば,正中神経は,手首の骨と靱帯のすき間を走っていますので,手関節を反復して使用する職種の人などでは,この正中神経支配領域の手指に異常感覚や夜間痛が認めらることがあり,手根管症候群といいます.その他,肘の外傷等による尺骨神経麻痺,コルセットやベルトの圧迫による外側大腿皮神経麻痺などは比較的よく認められます.次に,全身性の内科的疾患(糖尿病,膠原病,ビタミン欠乏など)や中毒(薬物,有機溶剤など),感染症,悪性腫瘍などにより末梢神経が広範に侵されることがあり,多発神経炎といいます.この場合,長い神経線維ほど障害を受けやすいことから四肢末端部に障害が強く,手袋および靴下を身に付けたような分布になります(図2 B).しびれの分布から末梢神経障害が疑われる場合,末梢神経伝導速度の測定,針筋電図あるいは神経生検などを施行して,障害の有無,重症度などを検討し,原因診断や治療効果・予後の判定に役立てます.
4.中枢性の“しびれ”
・脊髄障害によるしびれ・
脊髄神経は,合計31対より成っており(頚髄(C)8対, 胸髄(T)12対,腰髄(L)5対, 仙髄(S)5対, 尾髄1対),末梢神経の分布とはまた別に,それぞれ一定の皮膚領域と関連しています. 脊髄がある位置で障害されると,そのレベルあるいはそれ以下の領域の感覚が障害されます. ここで,痛覚・温冷覚と触覚・深部覚は脊髄内で伝導路が異なるため,脊髄のどこが侵されたかによって感覚障害の内容が異なってきます.脊髄障害の原因としては,脊椎の変形(頚椎症,腰椎症),椎間板ヘルニア,脊髄炎,脱髄疾患(多発性硬化症ほか),血管障害,腫瘍,外傷などがあり,これらの診断には,脊椎 X線写真,脊髄MRI,脊髄造影,髄液検査などが用いられます.
・脳幹〜視床〜大脳障害によるしびれ・
感覚の伝導路は,脊髄を経由して視床に達するまでに左右交叉するため,通常,視床〜大脳の障害では, 病変のある側と反対側の半身(顔面を含む)の感覚低下をきたします. 例えば,左大脳半球に脳梗塞があると,右半身がしびれます. なお,脳幹に病変がある場合には,顔面は病変と同側がしびれることがあります. 原因疾患としては,脳血管障害(脳梗塞,脳出血など)が最も多いですが,腫瘍,脳炎などによる場合もあり,頭部 CT,頭部MRI,脳血管撮影,髄液検査などで診断されます.
5.その他の原因による“しびれ”
以上の神経系の障害の他に,血液の循環障害によってしびれを生じることがあります(閉塞性動脈硬化症など). この場合,四肢末梢の異常感覚に加え,冷感や皮膚色の変化および末梢動脈の拍動減弱などがみられます. また,精神的なストレス(心因性)によっても,時にしびれを生じることがありますが,しばしば感覚障害の範囲が図1に示すような神経の分布に一致しないという特徴があります.
6.“しびれ”の治療
一般に神経線維の栄養補給・再生促進のためにビタミン剤(B1,B12など)や,神経栄養血管の循環改善を目的に血管拡張剤を用います.
症状が強いときや痛みを伴うときは,鎮痛剤,抗痙攣剤,抗うつ剤などが有効なことがあり,また,
理学療法や神経ブロックも試みられます.外傷・圧迫性のものでは,外科的な治療が必要となることもあり,
糖尿病など全身性の疾患に合併するものや脳疾患では,その原疾患の治療が最も重要となります.
また,血中の自己抗体などの関与する免疫性の疾患では,副腎皮質ホルモンや免疫抑制剤の投与,血漿交換などを行います.
しびれをきたす原因のなかには,診断・治療に緊急を要するものもあり,専門医療機関への受診をおすすめします.
(多田由紀子)