手や足,あるいは口など,体の一部がふるえるという症状は決してめずらしいものではありません.ふるえにもいろいろなものがあって,またその原因もさまざまです.実際はふるえがあっても病気ではないことも多いのです.だれでも,たとえば極度に緊張したり,非常にこわい思いをしたときなどにはふるえがでて不思議はないのです.「ふるえ上がる」,「震撼とする」,という言葉があるように,ふるえというのは状況によっては正常な反応なのです.しかし特に恐怖や寒さなどを感じていない時にもふるえがある場合には病気によって起こっている可能性もあります.ここでは恐怖や寒さによるふるえの話はさておき,治療の対象となるふるえについて説明します.

(1) 本態性振戦

 熟年以降の年齢になって,手にふるえが出現した場合,もっとも多い原因がこの本態性振戦です.ふるえのために私どもの科を受診された患者さんのうち,原因としてもっとも多かったのはこの本態性振戦でした.「振戦」とは「ふるえ」のことです.手以外にも声がふるえたり,首にふるえがでて顔を横に振るように見える場合もあります.字を書いたり,茶わんを持ったりするときや,人前に立って精神的に緊張した時などにふるえが強くなるのが特徴です.特に意識していないときや手を動かさないときにはふるえは止まるか,軽くなります.後に説明するパーキンソン病の振戦と比べて,ふるえかたがかなり細かいこと,手のひらを広げて手の甲を上にして前に上げておくとふるえが強くなることも特徴です.原因は不明でなのですが,なんらかの体質的な素因が関係しているともいわれ,病気とは言えないのかもしれません.似たようなふるえは先ほども書きましたがだれでも精神的緊張が強ければ出ることがあります.本態性振戦はとくにほうっておいたからといって命取りになることはありませんが,数年かけてすこしづつふるえが強くなることがあります.また下に述べる病気で見られる振戦とまぎらわしいことがあり,検査が必要ですのでふるえが気になっている人は病院を受診してみて下さい.

 本態性振戦は,軽い場合は特に治療を要しませんが,ふるえによって日常生活に支障を感じる場合はふるえを軽くする薬がありますので医師に聞いてみて下さい.ふるえが強くて生活に支障があるが薬だけでは抑えきれない場合や,副作用のため薬が使用できないときは手術治療が選択される場合があります.脳の中の視床と呼ばれる場所に,電気を出す細い線のようなもの(電極)を埋め込んで電気刺激するという方法です.当院では脳神経外科と共同で行っています.


(2)
嗜好品や薬などによる振戦

 何らかの物質によって引き起こされているふるえです.もっとも有名なのはアルコールですが,その他,たばこにふくまれるニコチンや,コーヒーに入っているカフェイン,ある種の医薬品(ステロイドホルモン剤やβ刺激剤,利尿剤など)などによる振戦がよく見られます.原因となっている物質を遠ざければ通常はおさまりますので,治療はこれらの原因物質を遠ざけることですが,振戦の出やすい人ではこれらをやめても振戦が続くことがあります.また本態性振戦の患者さんがこれらの物質を摂取すると振戦が一時的に増強することがあります.

 アルコールによる振戦は,長期に多量に飲酒していると出てくるものです.これの特殊なところは,たちが悪いことに飲むとふるえが軽くなるけれどもお酒が切れると前よりもっとひどくふるえるという特徴があるため,ふるえるから飲む,飲むからふるえるという悪循環におちいっていしまうことがある点です.飲むと止まるからといってお酒で止めようとするのは厳禁です.この場合治療はもちろん禁酒です.

(3)甲状腺機能亢進症

 甲状腺の病気によって甲状腺ホルモンが過剰に分泌された場合や,甲状腺ホルモン剤を過量に服用すると振戦がでる場合があります.薬品による振戦や本態性振戦とよく似ているのですが,ふるえかたが非常に細かいのが特徴です.甲状腺の病気が手のふるえをきっかけに発見されることもあります.体重減少や頻脈(脈が速い),発汗が多いなどの症状をともなう場合は甲状腺機能亢進症を疑います.これは血液検査で解ります.

(4) パーキンソン病

 振戦を起こす代表的な病気です.パーキンソン病は,中年以降になって発症することが多い病気で,手あるいは足の振戦,動作が緩慢になる,表情が乏しくなる,前かがみの歩きかたになる,小股で歩くようになる,足が前に出にくい,転びやすいといった症状が出て,少しずつ症状が強くなってゆく病気です.手の振戦から始まるケースが比較的多いようですが,振戦がでない場合もあります.パーキンソン病で見られる振戦はかなり特徴的で,わりと大きく,1秒間に67 回という振戦としては比較的ゆっくりとした動きで,「丸薬を丸めるような」と形容されるように親指と他の4本の指をつかって何かを丸めているように見えます.もっとも丸薬を作っている人を見る機会は現在ではほとんどありませんので,どんなふるえかちょっと想像がつかないかもしれません.

 パーキンソン病の振戦は,程度が強くなると,動作緩慢などの他の症状と相まって日常生活に支障を来すことがあります.右手にでるとやはり字が書きにくくなったり,はしが持ちにくくなったりします.そうなると治療が必要になります.

 この病気では脳の一部(中脳)に存在する,ドーパミンを作っている神経細胞の数が少しずつ減ってしまってこれらの症状が引き起こされるのです.原因は不明で厚生労働省の指定する特定疾患の 1 つですが,L - ドーパなどの抗パーキンソン薬を飲むことで症状はかなり改善します.振戦もこれらの薬剤で軽減します.パーキンソン病患者さんの場合,まず抗パーキンソン薬を使用しますが,これらの薬剤は症状を緩和するものであって根治するものではないので,長期の服用が必要になります.しかし長年服用していると次第に効果が弱くなるという欠点もあります.抗パーキンソン薬も最近はさまざまな種類のものができて,治療の幅が広がってきています.しかし病状が進行し振戦が非常に強くなった場合は内服薬のみでは振戦が抑えきれないこともあります.抗パーキンソン薬が副作用などの関係で使えない,あるいは増量できない場合もあり,このようなときは脳の手術が選択される場合があります.本態性振戦のところで述べたように,大脳の中の視床あるいは視床下核という部位に電極を埋め込む手術が行われています.

 (5)その他

 その他にも脳梗塞や脳出血による振戦,末梢神経障害による振戦,肝機能障害(肝性脳症)や腎機能障害による振戦,全身けいれんの一部としての「ふるえ」など,ふるえを起す病気にはさまざまなものがありますが,ふるえだけでなく原因となっている病気の治療が必要な場合もありますので気になる方は病院を受診してみて下さい.「ふるえ」は当院では神経内科が担当しています.(柿沼 進)